PICK UP CONTENTS

「都市と自然、その間にある暮らし」の始め方とは? NATURE TOKYO EXPERIENCEトークイベントレポート【後編】

ここ数年でテレワークなどの新しい働き方が進み、人々の“暮らし方”も多様化してきました。

 

都市から移住する人も増える中、「自然に囲まれた暮らしは魅力的だけど、都市での暮らしも手放したくない!」という人もいるのではないでしょうか。

もしも都市と自然のどちらかだけではなく、その間をいったりきたりしながら暮らすことができたら……。

 

NATURE TOKYO EXPERIENCEは、そんな新しい視点の「TOKYO LIFE」を提案するイベント「TOKYO LIFE FINDERS -都市と自然、その間にある暮らし-」を、2022年10月22日(土)・23日(日)の2日間、下北沢の「BONUS TRACK GALLERY」で開催しました。

 

特別企画のトークイベントでは、「日本仕事百貨」を運営するナカムラケンタさん、「原っぱ大学」主宰の塚越暁さん、一般社団法人RELEASE;の但馬武さんをゲストに迎え、「都市と自然、その間にある暮らしの始め方」をテーマにトークを展開。

 

イベントレポート後編では、お子さんを持つ3名に「パートナーや子どもはどうやって連れて行ったの?」「暮らし方を変えて子どもに変化はあった?」など、家族にまつわるアレコレを聞いてみました。

 

【登壇者プロフィール】

 

ナカムラケンタ (日本仕事百貨)

「日本仕事百貨」を運営する株式会社シゴトヒト代表。心地のいい場所には「人」が欠かせないと思い、生きるように働く人の求人サイト「日本仕事百貨」を立ち上げる。グッドデザイン賞など、様々な審査委員を歴任。東京・清澄白河「リトルトーキョー」にて、いろいろな生き方・働き方に出会える「しごとバー」や焚き火をかこむ合同企業説明会「かこむ仕事百貨」を企画・運営。著書『生きるように働く(ミシマ社)』。

 

 

塚越暁 (つかこし あきら)  HARAPPA(株) 代表取締役/原っぱ大学ガクチョー

神奈川県逗子市生まれ、在住。雑誌編集、ECサイト運営、経営企画と11年の会社員生活を経て独立。2012年、個人のプロジェクトとして大人と子どもが共に思い切り遊ぶ場「子ども原っぱ大学」を立ち上げる。2015年、HARAPPA株式会社を創業し、サービス名を「原っぱ大学」に変更。大人と子どもがフィールドで共に全力で遊び、関係を形作る会員制プログラムとして神奈川県逗子市でサービス開始。現在は直営拠点を千葉県佐倉市、大阪府茨木市にも展開。アクティブ会員数は500家族超。

 

 

但馬武 (たじま たけし) 一般社団法人RELEASE;/ブランディング/ディレクター

一般社団法人RELEASE; 理事/fascinate株式会社 代表取締役社長

パタゴニア日本支社にてダイレクトマーケティング部門統括を中心に19年勤務。2017年より地域活性化を展開するエーゼロ株式会社を経て、一般社団法人RELEASEに参画。2018年に愛される企業「LOVABLE COMPANY」のためのブランド戦略を構築するfascinate株式会社を創業。

 

パートナーを“少しずつこちらの世界へ招待”する

 

「暮らし方を変えてみたい」と思ったとき、気になるのは同居しているパートナーのこと。

ゲストの3名は、パートナーと一緒にどうやって新しい暮らしを始めたのでしょうか。

 

 

但馬武さん(以下、但馬)「僕のパートナーはもともと自然が大好きなタイプではないので、“自然をどう暮らしに取り入れよう?”と考えて、編み出したのが“旅”でした。子どもが小さな頃には家族みんなで旅に出て、たくさん自然に触れ合うことができました。そこから、ちょっとずつ“こちらの世界に招待していく”イメージでしたね」

 

 

 

「そして今では、夫婦で一緒に畑を趣味にしています。もう6~7年は続けていて、週末には2人で収穫に行っていますよ。パートナーは最初、土や虫が大嫌いでキャーキャー言っていましたが(笑)、いまではすっかり平気になって畑づくりを楽しんでいます」

 

 

ナカムラケンタさん(以下、ナカムラ)「僕は妻と子どもの3人家族ですが、最初は妻も乗り気ではなかったです。北八ヶ岳に家族みんなで登山に行ったときも、山頂手前で“なんでこんなところに連れてきたの?”と言われて……(笑)。でも今となっては、拠点を持って自然に触れ、大変なことを一緒に乗り越えたからこそコミュニケーションが増えて、お互いの考えをすり合わせてられているのかなと思っています」

 

「結果的には拠点を持ってよかった」と話すナカムラさん。

 

塚越暁さん(以下、塚越)「僕はもともと逗子で生まれ育ち、妻は赤坂で育ちました。僕が会社員だった当時、逗子に購入できそうなマンションを見つけて。“朝からサーフィンをして、シャワーを浴びて、コーヒーを飲んで会社に行く”みたいな、カッコいい会社員ライフが送れると思い、妻をわりと強引に説得して逗子に帰ったんです。妻は最初、逗子のあまりの田舎っぷりにブーブー言っていましたが(笑)、気がついたら都心のマンションを売って、僕のひいじいちゃんが暮らしていた古民家に暮らしています。だんだんと暮らしに海も入ってきて、いま彼女は“アウトリガーカヌー”というマリンスポーツに夢中です。日焼けで真っ黒になりすぎて、東京の友人に驚かれるくらい(笑)」

 

「連れてきてしまえば勝ち!」と話す塚越さん。

 

「最初はパートナーが乗り気ではないという人はたくさんいるはず。でも、いざ家族みんなで自然のある暮らしを始めてみると、解放されていくんですよね。きちんとした合意は得ていなくても、結局は“連れてきてしまえば勝ち!”だと僕は思います(笑)」

 

子どもの中にある自然が「発芽」するとき

 

 

パートナーと同じく、子どものことも気になるところ。子どもたちは、暮らし方が変わることによって影響はあるのでしょうか?

 

塚越「僕は、子どもはどこに住んでいたって変わらないと思っています。どこだって自由だし、どこだって伸び伸びと遊べる。逆に、それを先回りしてコントロールしているのは親の方だと思うんです。原っぱ大学に来る親御さんも“自分の子どもはアスファルトの上でしか遊んだことがないから、自然の中で遊べるのか心配”という方は多いですが、いざ子どもが山に来ると、親の心配をよそに泥んこの上を裸足で駆け回っているんですよね」

 

 

「コンクリートに囲まれて育つことよりも、親が“人に迷惑をかけちゃいけない”とか“ケガをさせちゃいけない”とか、社会での役割や義務感でがんじがらめになっていることが多いんです。たとえ暮らし方が変わっても、子どもたちはちゃんと生きる力を持っているから、親が子どもを信頼することが大切なんだと思います」

 

 

子どもはどこにいても“生きる力”を持っていると話す塚越さん。一方、大学生のお子さんを持つ但馬さんは「小さな頃に自然で遊んでいた経験が、子どもの中に種としてまかれている」と感じる瞬間があるそうです。

 

但馬「小さな頃に自然と触れ合っていたからといって、子どもたちが大きくなっても自然が大好きとか、アウトドアアクティビティを続けているとかではないんです。ただ、大きくなった彼らを見ていると、小さな頃に自然と向き合ったときに感じたものが、彼らの中に残っているんじゃないかと感じることがあるんです」

 

 

「たとえば、山を登るときは簡単にはいかない。辛いし、自分や誰かが怪我をすることもある。そのときに仲間の荷物を持ってあげるとか、みんなで一緒に協力しあうとか、必ず他者とのコミュニケーションが発生します。その経験を通して、他者と関わるときの“コミュニケーションの型”が身につく。思春期には迷うこともありますが、もう少し大人になったとき、また自分の中にあった型に戻っていく。大学3年生になった息子が、自分が辛いときでも他人をいたわる姿や、彼の他人との関わり方を見ていたときにそう感じました。そういう“種”のようなものは見て取れるので、彼らがさらに歳を重ねて人格が成長する中で、いつか“発芽”するときがくるような気がしています」

 

 

塚越「原っぱ大学に遊びに来ていた子どもたちも、同じだなと感じます。小さな頃は山や川で泥んこになって遊んでいたけど、中学生や高校生になってからも自然の中で遊んでいるわけではなくて。でも“自分で物事をフラットに決められる”とか、“人とスムーズにコミュニケーションができる”とか、“帰る場所があるからこその強さ”をみんな持っているんですよね。それは目に見える強さではなく、内にある信頼のようなもの。それはきっと、自然が子どもたちの中にあるからだと思っています」

 

焚き火は自分を取り戻すためのプロセス

 

 

自然の中で遊んだ経験が、子どもたちの中に残り続けると話す但馬さんと塚越さん。そしてナカムラさんは、自然に触れ合うことで「大人にも変化がある」と話します。

 

ナカムラ「大人同士だと、自然の中で会話をすると質のいいコミュニケーションができて、いろんな話が進みやすくなる気がします。僕の会社では、今年から“焚火を囲む合同説明会”を始めました。企業ブースごとに焚火を囲んで、企業の人と参加者が話をするんです。これがとても良くて。通常の企業説明会って、お互いに本来の自分を出すのが難しい。でも焚火を囲んでいると、お互いにリラックスして、腹の底からコミュニケーションができるんです。焚き火をしていると無言の時間も気にならないし」

 

塚越「都市の生活で忘れているだけだと思うんですが、人間だって生き物なんだから、僕たち自身も自然の一部なんですよね。それこそ焚き火も、“自分の中にある自然”を取り戻すためのプロセスだと思っていて。どこに暮らしていても、自分の中にもともとある自然に気づくことが大事なのかなと思います」

 

「都市と自然、その間にある暮らし」の魅力

 

 

最後は「都市と自然、その間にある暮らし」をする中で感じる魅力的なところを、3名それぞれに話してもらいました。

 

但馬「いろんなフィールドを行き来して暮らしてみると、たとえ子どもたちは記憶に残っていなくても、親同士の会話では、子どもたちと旅をした思い出が出てくるんです。“あのときの思い出だけで、たぶんこのまま老後も生きていけるね”なんて話しています。なにか辛いことがあったときでも、その思い出によって自分をすぐに取り戻せる感覚もあります。だからこの暮らしは、子どもと親、両方にすごく意味があるものなんです。最初は少し大変かもしれませんが、始める価値はあると思います」

 

 

ナカムラ「僕は転勤族だったので地元がないんですが、今では新島が地元だと思っています。島に行くたびに、ご近所さんや商店のお母さんが挨拶してくれて。“戻ってきたな”という感覚は初めての経験なので、すごく嬉しいですね。都市だと変化のスピードが速いけど、変わらない場所があることは安心します。子どもたちにとっても、ちがう土地にそれぞれ友達がいて、都市と自然で暮らす友達同士をつなげることもできるかもしれないなって」

 

 

塚越「自然の中で遊ぶことで一番魅力的なことは、“コントロールできない”ことだと思うんです。雨が降っても都市にいたら安全ですが、山だったらそれだけで大変なこと。そんなときに自分をどうチューニングするか、安全を守るかを考えるきっかけになる。そういった自分ではどうにもならないことに向き合えるのは、都市の暮らしだけでは経験できないことだと思います」

 

 

ゲストの実体験から、さまざまな「都市と自然、その間にある暮らし」の始め方のヒントが出てきたトークイベント。

新しい暮らし方を探っている方、気になるけれど始められていない方。自分の取り込みやすいエッセンスを見つけて、初めの一歩を踏み出してみませんか。

 

■前編:

「都市と自然、その間にある暮らし」の始め方とは? NATURE TOKYO EXPERIENCEトークイベントレポート【前編】

「拠点はどうやって手に入れたの?」「自然・都市それぞれに感じる魅力は?」など、3人に聞いてみました。

他の記事を読む