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島しょをつなぎ、未来へつなぐ。 島を超えて化学反応を生み出すTIAMの挑戦

東京本土から南へ約120km。東京・竹芝客船ターミナルからジェット船に乗り、約2時間で到着する伊豆大島に、2022年TIAM(ティアム)という会社が誕生しました。「Tokyo Islands Area Meeting」の頭文字から付けられた社名の由来の通り、東京島しょ地域11の島を一つのエリアと捉えて、対話によって島と島を結ぶことで、これまでにない事業や人々の交流を創り出していくというビジョンを掲げています。

TIAMを立ち上げたのは、伊豆大島、父島(小笠原)、八丈島で育ち、本土での学生生活と社会人経験を経て三宅島に移り住んだ伊藤奨さんと、東京でデザイナーとしての会社勤めを経て、独立をきっかけに伊豆大島に移り住んだ横浜生まれの千葉努さんのお二人です。

 

決してビジネスを始めやすいとは言えない島しょ地域で、それぞれの専門性を活かした仕事に励んできた二人がどのように出会い、なぜ一緒に会社を立ち上げることになったのか──本土と島、島と島をつなぎ、さまざまな化学反応を生み出し続けるお二人にお話を伺いました。

 

熱量が引き寄せ合い生まれた「TIAM」という必然

インタビューを行ったのは、2023年に伊豆大島にオープンしたコワーキングスペース「Izu-Oshima Co-Working Lab WELAGO(ウェラゴ)」。その名前は、「Work」と多島海域(諸島・列島)を表す「Archipelago」を掛け合わせた造語から付けられ、多様な働き方を生み出す多働海域を意味しています。まずは、生まれも住む島も違う二人がどのように出会ったのかについて伺いました。

 

伊藤奨さん(以下、伊藤) 「父親が東京都の仕事をしていた関係で、島しょ地域で生まれ育ったのですが、大学進学のタイミングで本土へ渡りました。卒業後はフィットネスクラブや野外教育の仕事の傍ら、東北で震災復興のボランティアをしていました。そこで出会った現地の人から「自分が大切にしたい場所を守るためにこの震災という経験を活かしてほしい」と言われたことから、『自分が本当に大切にしたい場所はどこだろう』と考えた時に、僕を育ててくれた東京の島々が浮かんできて、2016年に縁あって三宅島へ移住することにしました。島しょ地域が自分の戻るべき場所だという意識はどこかであったのでしょうね」

 

三宅島に拠点を移した伊藤さんは、2016年に一般社団法人アットアイランドを起業、三宅島初のゲストハウスを立ち上げるなど島の観光を盛り上げる事業を行っていました。ところが、新型コロナウィルス感染症が流行し始めた2020年春、転機が訪れます。

 

TIAM代表取締役社長の伊藤奨さん。幼少期から、伊豆大島→小笠原父島→八丈島と東京諸島の流人として育つ。趣味はお神輿、逆立ち。愛称は「いと〜まん」。

 

 

伊藤 「コロナ禍での島の宿泊事業は、正直もう諦めるしかありませんでした。そこで、空いた時間でいろいろな人に連絡を取って会いに行きました。熱量が合う人との出逢いに飢えていたんです(笑)。僕は元々島しょ全体を一つのエリアとして繋ぐようなことがしたかったのですが、三宅島でゲストハウスや観光の仕事をしていると、どうしても島内のことだけに入り込みすぎてしまっていたようです。そんなときに連絡した内の1人が、伊豆大島に住んでいる千葉さんでした」

 

二人は面識こそあったものの、それぞれ忙しい日々を過ごしていて、なかなか会う機会がなかったといいます。

 

千葉努さん(以下、千葉) 「僕は2010年に東京本土から伊豆大島に引っ越してきました。元々は、妻と一緒にやっていたデザインの仕事もしながら、商工会の仕事をしたり、以前ジャズ喫茶だった場所をお借りして『kichi』というクリエイティブスペースをつくったり、公私の垣根もなく様々な仕事や活動をしてきました」

 

 

TIAM代表取締役最高技術責任者の千葉努さん。「トウオンデザイン クリエイティブディレクター・デザイナー/一般社団法人ぶらっとハウス理事/NPO法人kichi副代表理事/一般社団法人大島観光協会専務理事」という多くの肩書からも島での活躍が窺い知れる。

 

 

精力的に動き続ける千葉さんの活動の一つとして、「東京都離島区」というプロジェクトがあります。東京諸島への玄関口である東京竹芝のある港区、その先に広がる島しょ地域を東京の24区目の“離島区”と見立てたWebメディアで、これから本格的に稼働していくというタイミングで伊藤さんからの連絡がありました。

 

千葉 「いと~まん(伊藤さんの愛称)は『東京都離島区』という島しょの捉え方にすごく共感してくれました。伊豆大島に来島した際にうちでBBQをしたのですが、ほとんど初めてだったと思いますよ、じっくり話したのは(笑)。そこで意気投合して、島をつなぐ取り組みをやろう、一緒に会社を作ってやっていこう、という流れに自然となりました」

 

二人は島を超えて、メディア・コミュニティ・マーケティングという3つの軸で事業の構想を練り、2022年1月にTIAMを立ち上げました。本業を継続しながらも、島しょ地域をつないで新たな人の交流や動きへとつなげていくために、本業以上のエネルギーを注ぎ込む日々が続きました。そこまでのエネルギーを注げたのは、統計上人口減少が避けられない未来の中でも、それぞれ異なる経験値と背景を持った2人“だからこそ”できることに力を注ぎたいという思いからなのかもしれません。

 

伊豆大島の元町港。都心から2時間でこの空気を吸えると知ったなら、島しょに通うライフスタイルにさえ興味が湧いてくる。

 

 

文脈を知るほどに、地域は面白がれる

出会ったときの熱量をそのままに、TIAMはさまざまなプロジェクトを企画運営しています。島という限られたエリアで、どのように地域の資源を見つけ、どのように事業のアイデアを考えているのでしょうか。

 

伊藤 「僕は島育ちですが、三宅島には住んだことがなかったので、引っ越してきたときは地域について知らないことばかりでした。ゲストハウスの運営やガイドツアーを実施しながら、自分自身も島について学びましたね。伊豆諸島の神々に関して記述されている『三宅記』を読んで歴史や伝説についての知識を増やしたり、地域の先輩方にお話を聞いたりするうちに、地域の大きな文脈が少しだけ見えてきました。例えば、縄文時代からどのようにこの島で人々が暮らしてきたのかなど、島の歴史を知れば知るほど、見慣れた島の風景の中に、それまでは見えていなかったものが見えてきたのです。そして今、その長いオリジナルの文脈の先端に私たちが立っているという感覚を覚え、自分たちもこの文脈の登場人物として小さくとも存在していることを自覚しました」

 

千葉 「そういうことってありますよね。例えば、伊豆大島では『あんこさん』という絣(かすり)の着物に前垂れ、頭に手ぬぐいという女性の作業着があります。火山島である伊豆大島には川がなくて、昔は水の確保に苦労したので、女性が朝夕「ハマンカー」と呼ばれる共同井戸へ水を汲みに行くのが習慣でした。当時は道が狭くてすれ違うのも一苦労。そこで、桶を頭に乗せる独特なスタイルが生まれたそうです。そんな風にその土地の風土が歴史をつくり、文化となり、風景になっているんです」

 

2023年に5年ぶりに開催された「富賀大祭」。伊豆諸島の総鎮守であるとされる富賀神社において、2年に1度5地区を1泊ずつ巡る奇祭。TIAMの伊藤さんは地区の青年団員として祭を盛り上げるほど、三宅島に入り込んで文脈を感じ取っている。

 

 

 

 

絣の着物に前垂れ、頭に手ぬぐいのあんこさんスタイル。

 

 

お二人の話を聞いていると、自分が暮らしている街についてどれだけのことを知っているだろうかと考えさせられます。地域の歴史や文化を知ることで、自分の街の「今」を把握でき、さらには、未来に必要なことが見えてくるのかもしれません。

 

伊藤 「僕は特に教育に関心があることもあり、アイデアを練るとき、島外向けより島内向けを考えがちです。島の人たちこそ、島の成り立ちや“なぜ誇れる場所なのか”ということを理解することが付加価値に繋がると思っています。島の文脈を分かった上で暮らしている人たちが、それを踏まえて観光客向けのツアーを考えたらどうだろう、と考えるとちょっとワクワクしませんか。TIAMでもツアーをよく企画しますが、単なる知識を提供して本土の人に三宅島や伊豆大島マスターになって欲しいわけではありません。むしろ、見えているものの奥にある文脈を捉えてほしいのです。そのきっかけを提供したいと思っています」

 

地域の隠れた資源を可視化する取り組みもしていきたいと話す二人。島の人たちが島のことを学ぶ機会が増えれば、島の未来や風景は豊かになることでしょう。自分の地域をよく知る──それは、何も島に限った話ではなく、どの地域においても必要なことではないでしょうか。

 

取材後に立ち寄った、高さ約24m幅630mの圧倒的スケールの断層。過去約1万8千年間に繰り返し起こった大噴火と、100回以上の噴出物が降り積もってできた地層とのこと。これもきっと、一つの文脈との出会いなのだろう。

 

 

 

人生の本丸を事業にする。距離を超えるビジョンの力

取材の日、二人は久しぶりに顔を合わせました。海を挟んで見える距離とは言え、気軽に日帰りで行き来することのできない島に暮らすという物理的な制約がありながら、共に会社を運営するのは難しくないのでしょうか。

 

伊藤 「僕も千葉さんもたくさん失敗してからTIAMを立ち上げたこともあり(笑)、おかげさまで大きな課題もなくプロジェクトに取り組めています。僕はどちらかというと想いを言葉にして行動し旗を掲げて場をつくる役割で、千葉さんはデザイナーとして想いや物語をビジュアルで可視化していく役割。スキルも経験も違うので、役割もはっきりしていますし、とても尊敬しています」

 

千葉 「TIAMを立ち上げて間もない頃は、今以上に一緒にいる時間を多く取っていました。今、大きな課題がなく取り組めている背景は、最初に同じ熱量で出会って、思い描くビジョンを共有できていたことも大きいと感じています。伊藤も私も別の事業で、相手との熱量の差が要因で失敗したという経験もありますから(笑)」

 

伊藤 「これまでも今もいろいろな仕事をしてきましたが、僕の人生の本丸はTIAMです。これから本当に実現したいことに向けて、何をすべきで何をすべきでないかをもっと考えていきたいなと思います」

 

 

友達でも家族でもない、ただの同僚でもない。共同代表という希少な関係性。

 

千葉 「僕たちは共同代表ですが、二人だけで完結できるプロジェクトはほとんどありません。島内外のパートナーとチームを組んで取り組んでいます。ロックバンドのような固定メンバーではなく、ジャズバンドのようにプロジェクトごとにチームを編成するイメージでしょうか。メディアである『東京都離島区』を運営していることで、日々いろいろな方にお会いする機会もあります。仕事の中で新しい仲間を見つけることも、チーム運営には欠かせないポイントかもしれませんね」

 

千葉さんが企画し、現在はTIAMとして運営しているWebメディア「東京都離島区」。

 

 

島を愛する人を、島に関わる人へ。新たな施設・コミュニティ「WELAGO」

インタビューの会場にもなったコワーキングスペース「Izu-Oshima Co-Working Lab WELAGO」には、2023年5月から運営に関わっています。この場所が、伊豆大島の新たなつながりを創り出しているようです。

 

千葉 「『ワークプレイス構築』『サードプレイス構築』『ビル資産価値向上』といった事業を行っている株式会社フロンティアコンサルティングで執行役員をされている稲田さんという方が伊豆大島出身で、以前からその方と企業合宿や研究開発ができるリビングラボのような場所を作りたいですねと話していました。この建物は第1回目の椿サミットを記念して建てられたそうですが、稲田さんと一緒に町役場にお伺いして町長に直接ラボの設置を提案したところ、この建物の使用を了承していただきました。それから、フロンティアコンサルティングさんによるリノベーションが行われ、『Izu-Oshima Co-Working Lab WELAGO』が誕生しました。島しょ地域で公共施設を民間が利活用する事例としても注目していただいています」

 

「HIDARITE」「MIGITE」の二つの棟には合計24席のワークスペースがある他、建物の裏手には気持ちのいい芝生スペースも。

 

伊藤 「これまでやってきた観光に関するプロジェクトの領域が『島を愛する人を増やす』ことだとすれば、WELAGOでは、場としてもコミュニティとしても、『島に関わる人を増やす』という領域に力を入れていきたいと考えています。伊豆大島のことが好きだけど関われる機会がなかったという人たちが何かの形でこの島に関わるきっかけを創っていきたいと思っています」

 

千葉 「最近は、放課後に学生が使ったり、婦人会、サッカークラブ、役場の打ち合わせなどが行われたりと、幅広く使っていただいています。また、WELAGOではリアルな場だけではなく、オンラインのコミュニティも運営しているのですが、コワーキング利用者やワークショップ参加者を中心に島内外半分ずつくらいのメンバーが入ってくださっています。そこから繋がりや仕事が生まれたり、外の芝生でシェアファームをやりたいというアイデアが出たり、数ヶ月でいろいろなことが生まれています」

 

伊藤 「ちょうどこの場所で10月28日、29日に『REGENERATIVE 未来へつなぐ旅の兆し』という2日間のワークショップを企画しています。地域の資源を見つける視点だったり、対話の方法だったり、TIAMが大切にしていることをお伝えできる時間にもなるかなと思っています。今後もWELGOを活用して島内島外の人々を対象にワークショップを行う予定なので、ご興味ある方はWELAGOのサイトに気軽にアクセスしてみてください!!」

▼WELAGO

https://tokyo-welago.com/

 

ワークショップの内容は本サイトにレポート記事として公開予定です。

 

会場となるWELAGOのワークスペース

 

 

Text:Takehiko Yanase
Photo:Hao Moda

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