多摩と東京の島々の魅力を発掘する「新たなツーリズム開発支援事業」キックオフイベントライブ配信レポート
5年目となる「新たなツーリズム開発支援事業」について、活用する事業者の募集をスタートさせていく。この事業は、東京の多摩地域と、伊豆諸島や小笠原諸島など島しょ地域の自然の魅力を引き出し、新しい体験型・交流型のツーリズム開発を応援する事業で、今年は、9月8日(水)にオンラインでキックオフイベントが実施されました。過年度に採択されたモデルプロジェクト事業者による事業開発の紹介や、ゲストによる地域課題との向き合い方や、事業化のアイディアを持つ事業者とのセッションを通じて、多摩・島しょ地域の「新たなツーリズム」を考える時間となりました。
イベントは、公益財団法人東京観光財団 地域振興部の長崎純一次長兼事業課長による挨拶からスタート。多摩・島しょ地域への訪問率や旅行傾向のデータなどを紹介し、支援内容やこれまでに採択されてきたモデルプロジェクト内容について説明しました。
ここからは、2人のゲストが登場。1人目は2019年にモデルプロジェクトとして採択された株式会社トレイルヘッズの代表取締役・山口陽平さん。
オフィスの空間プロデュースを主力事業としながら、「働く・暮らす・遊ぶをシームレスに繋げる」という理念を掲げ、2018年から檜原村で会員制キャンプ場HINOKO TOKYOを開業。本支援事業を活用し、日本とフィンランドのスタイルを融合させた新しいサウナ「HINOKO SAUNA」をオープンしました。
社員の皆さんでフィンランドに行った際に着想を得たというサウナ小屋は、地元の檜原村の杉材を使い、会員の皆さんと一緒に行った焼杉の外壁が特徴。そこでは自分で割った薪で温めたサウナに入り目の前の渓流に飛び込むという体験ができ、檜原村の自然を味わえるようになっています。
素晴らしい自然を静かに楽しんで頂くために会員制にされていますが、ここでしかできない体験を求めて、多くの方々が会員募集を待つほどの人気に。また、ここを拠点に檜原村の住民たちとの接点を作る工夫についてもお話頂きました。
2人目は、雑誌『自遊人』編集長/クリエイティブディレクター 岩佐十良さん。
2000年に雑誌「自遊人」を創刊。2004年に南魚沼に移住し、2014年に里山十帖をオープン。今後事業展開を考える事業者の皆様の活動のヒントとして、里山十帖を中心とした取り組みをお話頂きました。
まず、収穫期を迎えた里山十帖の田んぼの一角で黄金の茶会と題して行われたイベントの映像を皆さんに見ていただきながら、新潟での取り組みについてお話頂きました。南魚沼地域を体験・体感できるメディア型ホテルである里山十帖の開業は、移住されてから10年ほど経った時。南魚沼がどういう所で、どういう表現をするべきなのか、10年住んでみてようやく少し分かったが、今も地域のことを部分的にしか分かっていない。南魚沼には何代も地域を守ってきた方々がいて、自分は土地をお借りしている立場(借地ではありません。土地建物は購入していますが、あくまで気持ちとして)ということを忘れてはならない。と仰っていました。
里山十帖以外の取り組みでも岩佐さんは同様のスタンスで、地元の人同士や他地域の人を繋ぐスタンスで活動をされており、時間をかけて地域の方とコミュニケーションを重ねていらっしゃるそうです。
多摩・島しょ地域は、アクセスに恵まれた巨大な首都圏に位置しており可能性の塊とも仰っていました。何をやっても成果は出るだろう。でもだからこそ、多摩って何?東京の島しょって何?ということをしっかり考えて欲しい。その為には10年とは言わないまでも地域と向き合って観察することが大切で、きっといろんなことが見えてくる。是非ミッションと夢を広げてほしい。というメッセージで締めくくられていました。
今回多摩・島しょ地域における新たなツーリズム開発にあたって、当地に在住の方も、そうでない方も大きな学びがあったのはないでしょうか。
岩佐さんの講演のあとには、多摩・島しょ地域で事業アイディアをお持ちの事業者の方々からアイディアを共有頂き、岩佐さん、山口さんとの意見交換も行われました。
1人目は株式会社グッドライフ多摩の高木さん。
100人が1回来訪するのではなく、2人が50回訪れるような地域を目指しており、直近では、ゴミ拾いしながらラフティングなど、多摩地域で東京SDGs体感ツアーを展開されています。岩佐さんは、23区に住んでいては身近ではない農林水産業も、同じ都内で多摩であればリアルにSDGsを学べる素晴らしい場所と述べられました。同じく多摩地域で事業展開されている山口さんも、秋川を調べてみると、知らなかったことが多く、そこから歴史を調べたりすることで広がっていった経験を踏まえ、何度も通うことで世界が広がる魅力があるとお話されていました。
2人目は株式会社ナイトレイの山口さん。
位置データの分析を活用し、島しょ地域での魅力開発ができないかと考えていらっしゃいました。例えばTwitterのデータ見ると、何の変哲もない場所でつぶやかれたツイートで地元の人しか知らなかった隠れたスポットが見えてくることもあるそうです。
岩佐さんからは、ナイトレイ社のように様々な技術を持った会社がたくさんあることが東京の大きな資産なので、「技術のふるさと納税」のような制度があったらというアイディアが飛び出しました。一方で、トレイルヘッズの山口さんからは、例としてゴミ問題など人が集中することでの弊害を指摘しつつ、上手く分散させて自然を大切にしながら楽しめる仕組みを作るのに活かされたらとても価値あるものができそう、と実際に多摩地域で事業を展開されているからこその意見を述べられていました。
当日のプログラムはここまででイベントは閉幕となりました。短い時間でも様々な立場の方のアイディアが合わさることで新たな魅力が開発されていくパワーを感じられ、参加者がそれぞれこのパワーがあれば何か生まれそうだ、という期待感を得ることができ、チャレンジの後押しになったのではないでしょうか。